新年特別インタビュー 脇雅史参議院議員に聞く

分析せずに公共事業減らし
ダム不要論は完全な間違い

民主党政権誕生以降、公共事業バッシングが一層激しくなっている。こうした状況に対して、脇雅史参議院議員は、国会の場で、鳩山総理に厳しい質問をぶつけ、公共事業をできるだけ減らそうとする政策を変えよとの要求を続けている。建設業界の立場に立って活動を展開する脇氏に話しを聞いた。(聞き手は豊田剛広報委員長と朝日啓夫広報副委員長)

──まず、民主党政権誕生以降の我が国の経済状況について、どのように考えておられますか。

脇国民は、民主党の政策がいいから選んだということではなくて、自民党のやってきたことに対する不信感が高じて、もう自民党には任せておけないというムードが出てしまった。では、民主党は、経済政策であるとか、さまざまな政策をきちんと検討した上でやっているかと言えば、ほとんど検討していない。国民が喜びそうなことを言って、それをマニフェストと称している。

おかしくなるのを、野党だから見てればいいかというと、悪くなって困るのは国民ですから、どうすればそれが悪くならなくて済むかを考えて国会活動をやっていかなくてはいけないと思うのです。ほっておいたら大変なことになるというのが実感です。

──前原大臣が、建設業者は20万社でも多いと言っておりますね。

業界どうなるのかその検討もない



現場をきちんと見て、人の意見も聞いて、現在の建設産業の、大手から地場、中小までをひっくるめて、実態を分析した上で、将来の方向性を見据えた結論が出てくるのなら、わかるのですが。公共事業をただ減らせばいいと言っているだけで、減らすとどうなるのかの影響分析もないし、業界がどうなるという検討もない。普通なら、原因を分析しないと、こうしますとは言えない。まさに蛮勇と言うべきものだと思います。


──中小企業にとっては、公共事業費の削減は、本当に深刻な問題で、経営者で、自殺する人まで出ている。当協会の岡本会長も、この苦境を何とか打開したいと動いております。



一つは、公共事業を中心として仕事量がどうなっているかです。地場の建設業は、公共土木で生きてきた会社が多いが、調べてみると、もう半分以上、赤字になっています。それは、首長さんを中心とする、安ければいいという発注の仕方に問題があるし、しかもトータルで仕事が減ってきていますから、食いつなぐために、ダンピング競争になるのです。

予定価格というのは、発注者側の、言ってしまえば指し値です。指し値で出せば、指し値より安くなることを期待する人はいない。指し値でやってもらえばいいわけです。あとは、中身で勝負してもらうように、いい会社を選ぶ。そういうことをしていかないと、技術者も技能者も、なる人がいなくなって、新陳代謝がうまくいかなくなってしまいます。今は、低賃金で生活もできないところまで追い込まれている。ここを抜けるには、適正価格という言い方はおかしいけれど、もう定価でやってもらえばいいのですよ。


──今、おっしゃったダンピング、低入札の問題、先生が生みの親と言えます総合評価にすべてリンクしていると思いますが。

安ければよいが会計法の悪さ


会計法の精神は何かといいますと、基本的には、土木の請負契約みたいなものは初めから考慮に入れていない。要は、国が持っているものを競売しよう、一番高く売れたら得するぞというわけで、競売の精神の中で売るときには一番高い人と契約しますと言っているわけです。

競売するときには、物が既にあるわけだから、相手がお金さえ出せば、絶対、損はしない。ところが、物づくりの場合は、まだ、物はない。これからつくってもらうのだから、安値の人と契約してもうまくいく保証はないわけです。

そこに、相手のことを考えないという会計法の精神の悪さが出ているわけです。会計法、地方自治法というのは、発注者側を守るための法律だから、相手を考えない。しかも、値段だけで損得を決めている。そういうことが続いてきた。では、何でそんなことをやってきて、うまくいったのかというと、右肩上がりだったからです。仕事がどんどんふえていくから、安値で受注する馬鹿はいない。だから、それなりの値段で取り、仕事量がふえていきますから、もうけも出るし、技術力も技能力も担保される。

ただ、それは、会計法のもとであってもうまくいったという、非常に恵まれた時期のことであって、実は、昭和50年代、60年代に仕事量がふえなくなってきた時、会計法の精神でやったらおかしくなるということを考えなくてはいけなかった。ちょうどそのころ、財政事情が悪くなったため、公共事業を悪者にしようという動きがあった。色んな不祥事をつかまえて、要らない公共事業をやっている、公共事業は無駄だということを、今日まで続けて言ってきた。

最近では、役人バッシングが始まって、公というものに対するさげすみみたいな考えが出てきて、公共事業は、役人が計画してやっているのだから、余計悪いというように、公共事業悪玉論と、役人の悪玉論が重なって、最近はとんでもないことになっている。

だけど、会計法の精神でやることでこの世界がよくならないのは、ほとんど自明なわけです。値段だけで決めていいわけがない。だから、品確法という法律で、総合評価でやりましょうということを言ったわけです。

総合評価ならばダンピング防げる

総合評価で決めることができれば、ダンピングはなくすことができる。安い値段を入れていた人は、ヒアリングをして、どうしてそんなに安くできるのですか、それは無理でしょう、だから、今回はだめですと。
もちろん、何で安くできるかが、納得できればそれはそれでいいのですから。そういう品確法の世界で総合評価をきちんとすれば、安値はなくなるし、会計法の悪さがなくなって、よくなるはずです。だから、そのことをきちんとやれば、問題は解決できるので、品確法を適正に運用したらいいのです。実は、品確法をつくったときに、会計法ではなくて品確法でやりなさいという法律にしようと思ったのですが、会計法をしっかり読むと、もともと、そう書いてある。だから、そのただし書きで書いてある部分を品確法の世界にした。そういう法律ができたということは、日本の公共事業と言われるものは品確法でやりなさい、総合評価でやりなさいということに、法律で決まったということです。

ところが、相変わらず、理解できていない。その理由ですが、実は、品確法は法律ができてから半年後に施行するはずだった。それが、成立がおくれたために、法成立の次の日から施行することになって、余裕がなくなってしまった。ある日、突然、やり方をぱっと変えて、全部できますかといっても、普通はできません。そこで、とりあえず少し猶予期間を与えるということになった。

今の日本は、契約の制度が悪いのではなくて、その制度を運用する精神が悪い。発注者がきちんと考えれば、うまくいく。ところが、会計法、地方自治法をもとに、安ければいいで決めている、それが続いている。これが、今の契約の実態です。


──国関係の発注者は、品確法をかなり勉強されておられます。ただ、地方へ行けば行くほど、発注者の方はわかってない。逆に、地方の優良な企業が、そういうことはだめだといって、発注者に教えている状況がまだ続いているのです。要するに、発注者の勉強不足ではないかと思います。



政治であれ行政であれ、その辺がきちんと物を考えない。特に政治が、票を稼げばいいという方向です。今、言った話は、ややこしくて票にならないから、そんなの知らないってことになる。選挙で選ばれた首長さんは、安くした方が自慢になる。私はこんなに安くしました、今までの制度はインチキだったけど、予定価格の半分で契約しましたって、威張っているわけです。それでは、おまえがつくった予定価格って何なのだ、インチキかという話になるのですが、目先の金の価値でしか物事を判断しない、恐るべき事態になっているのです。


──事前公表というのは無くなりませんか。



私は、事前であれ事後であれ、それは本質的ではないと思っている。なぜかというと、きちんと総合評価を運用しようと思ったら、工事ごとにヒアリングをするしかない。それなりの資格を設定して、来た人に、では、あなたの会社のだれがやってくださいますか、その人にはどんな経験がありますか、資材はどこから買うのですか、幾らで買えるのですか、機械はどこにありますか、施工計画で何かありますか、技術提案は何かありますかを聞いていけばいい。それで値段も入れて、今の手持ちの工事量からいっても、あなたにやってもらうのが一番良いとなる。それで決めるのが総合評価です。


──先生が提唱されている後出し方式についてお伺いします。

予定価格なくても契約はできる


私の言う後出しというのは、要するに予定価格をつくるのを後にしろということです。予定価格がなくても契約はできます。みんなから意見を聞いた上で、予定価格をつくって、ネゴすればいい。少し高いから、もう少し安くならないかとか。役所がなぜ上限拘束を設けているかは、予算上の問題です。この仕事をするのに幾ら用意しておいたらいいのかなという、その用意した金がいわゆる予定価格の上限拘束で、それ以上で契約しろと言われても金がないのだから困るというのが上限拘束です。

それが上限拘束の持つ意味で、それより高い値段で契約してはいけないということではない。きちんと話をして、だれにも落ちなかったら、ネゴをして、その高い値段でもお互いに納得して契約すればいい。競争したら安くなるはずだと言うけど、そうではなくて、一生懸命、競争してやっている市場を調べて値段を見つけているわけだから、そんなことを言うと、予定価格の意味がなくなる。逆に、予定価格の算出根拠がおかしいという話になる。だけど、その辺の矛盾には一切、目をつぶって、安けりゃいいということが幅をきかせている。全くばかな論理ですよね。


──次にダム問題の本質はどういうところにあるのかをお聞かせいただきたいと思います。



河川の災害を防ぐ治水も、水をうまく使っていく利水も、ダムなしではあり得ません。今、東京だってこうやって成り立っているのは、これまでつくったダムのおかげであって、ダム不要論を言っている人に聞きたいのは、今あるダムを全部なくしていいのですかということです。ダムなしで治水、利水をどうやっていくのか。どうにもできないのは、物理的に明らかで、ダム不要論は完全な間違いです。

今、水が余っているといっても、これまでダムをつくったからであって、沢山余っているわけでない。安全度を考えれば東京の利水の安全度なんてうんと低いわけで、ダムが必要なのに決まっているのです。だから、どこにどれだけダムをつくるかというお金の話と、その優先順位の議論があるのは当然ですが、ダムが要らないというのは全くの暴論です。ところが、そのことを国民の何割かが色眼鏡で見て、本質が見えなくなっています。


──それと、マスコミのとらえ方にも大きな問題がありますね。大雨でダムが放流して下が決壊したとかを平気で論評しているから困ります。

弘法大師以来水を貯めて生活


田中康夫が新潟で大雨が降ったときに五十嵐川ダムの放流によって堤防が壊れたようなことを言っていたけれども、そんなのは全くの大うそでね、現実も見ずによくそんなことが言えるものだとあきれています。

弘法大師の満濃池以来、日本というのは色々なところに水をためることでしか生活できないのです。ほっておけばどんどん流れていって、水がなくなるのだから。


──都市部の人間というのは本当に渇水で水道が出なくなれば、大騒ぎするのに、そのありがたみがわかっていない。日本の川は急流であり、とにかく災害が起こりやすい国土であることは間違いないわけです。それを一切抜きにした、ダムは要らないという議論はむちゃくちゃな暴論です。



ですが、何も余り力むことはないので、さっきも言ったようにダムに頼らないとできない部分は当然あるのですが、頼らなくていいとみんなが言うのならいいのです。大事なのは事実関係を明確にすることです。つくればどうなる。つくらなかったらどうなる。そのことをきちんと言っていただきたい。八ツ場ダムが要らないというのだったら、要らない理由を明示してくれと言うのですが、明示しません。すぐに、つくる、つくらないとの結論を出すのではなくて、きちんとしろと言っているのです。


──社会資本整備について全般的な意味で、先生はどのような考えをお持ちですか。

アメリカでさえ公共事業増やす


世界を見ると、日本だけこんなことを言っている。アメリカはもうやってないのですかというと、アメリカも公共事業の新規をふやしています。日本よりはるかにインフラ整備が進んでいるヨーロッパの国だってそうです。GDP比で見ても建設投資は今や日本は、うんと下になってしまった。

それでも金がないから減らすと言っているが、これは世界の常識に反する。では、どういうことが必要なのか。私はよく言っているのですが、もっと安全にしよう、もっと便利にしよう、もっと快適にしようという仕事がたくさんあるはずです。お金がないからそんなにはできないかもしれないが、今後10年ぐらいにこういった分野はここまで、こういった分野はここまでということをきちんと計画して実施する。それが公共事業の本当のあり方です。

何も景気対策のためにやるわけではないのですが、どうせなら景気がうまくいく、建設産業がうまくいくように、全体の仕事量をコントロールするという意味も公共事業は持つべきですね。


──最後に、新年ですので、中小企業が、どういう方向に進んでいったらいいかということを、お聞かせいただきたいと思います。



インフラ整備の調査をし、立案、計画をして、設計して、施工して、維持管理していくという一連の流れは全部公的サービスです。それをみんなで役割分担しているわけです。中小であれ大手であれ、色々な会社がその役割の中に参加している。いい参加の仕方をすれば、参加した人がうまく報われるし、国民のためになる。それはみんな公務ですね。公的なサービスの一環です。


地場の建設業の役割非常に大きい

そのことをしっかり皆が認識して、全中建がどんな役割を果たすかをその中できちんと位置づければいい。基本的には、多くの公共事業で地場の建設業が果たすべき役割は非常に大きい。だから、どれだけの分野を今後担当するかということを見当つけていかなくてはいけないですね。

そこで大事なのは、技能力、技術力という人間を大事にすることです。人の知恵、技術、技能をきちんと確保しない限り品確法があったっていい品質のものができるわけがない。そのことをきちんと目指していくことに尽きると思います。


──貴重な御意見をありがとうございました。